配偶者短期居住権とは?その内容や配偶者居住権との違いについて説明

令和2年に施行された改正相続法では、配偶者居住権の制度が創設されました。また、これと同時に、配偶者短期居住権という制度も創設されています。どちらも残された配偶者の居住権を保護しようとするものですが、配偶者居住権だけでなく配偶者短期居住権についても理解しておいたほうがよいでしょう。

前回は配偶者居住権について説明したので、今回は、配偶者短期居住権について説明したいと思います。

 

1 配偶者短期居住権とは?

配偶者短期居住権とは、簡単にいえば、被相続人と同居していた配偶者が当面の間そのまま居住し続けられるようにしたものといえます。

被相続人の所有建物に居住していた配偶者は、これまでは、被相続人が亡くなったとたん他の相続人や受贈者から出ていってくれと言われたり、住み続けるなら賃料相当分を支払うべきだと言われたりする可能性がありました。しかし、配偶者短期居住権により、一定の要件を満たす配偶者は、当面の間、居住建物に無償で居住し続けることができるようになりました。

 

2 どういうときに成立する?

配偶者短期居住権は以下の要件を満たせば成立します。

 

⑴ 配偶者であること

まず大前提として法律婚の配偶者であることが必要です。残念ながら事実婚のパートナーや内縁関係の場合には成立しません。

 

⑵ 被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していたこと

居住していたといえるには、その建物を生活の本拠にしていたことが必要です。

 

⑶ 一定の不成立要件に該当しないこと

配偶者短期居住権は、相続開始の時に配偶者居住権を取得したとき、相続人の欠格事由にあたるとき、廃除により相続権を失ったときには成立しません。

 

上記の要件を満たせば、配偶者居住権は法律上当然に成立することになります。

なお、配偶者が相続放棄をした場合であっても、上記⑶には該当しませんので、配偶者短期居住権は成立します。

 

3 配偶者短期居住権が成立するときの権利・義務は?

配偶者短期居住権が成立する場合、配偶者は、居住建物を無償で使用する、つまり無償で居住することができます。

この場合、配偶者は、従前の用法に従って、善良なる管理者の注意をもって使用しなければなりません。

また、居住建物を取得した者の承諾を得なければ第三者に使用させることはできません。特定の者が居住建物を取得する前であれば、すべての相続人の承諾を得ることになるでしょう。

配偶者短期居住権は、使用貸借の規定が準用されています。そこで、配偶者短期居住権を譲渡することはできませんし、通常の必要費は負担することになります。

 

⑶ いつまで住める?

配偶者短期居住権の存続期間には、2種類あります。

 

① 居住建物について配偶者を含めた相続人で遺産分割すべき場合(1037条1項1号)

この場合は、遺産分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から6か月を経過する日のいずれか遅い日までとなります。つまり、最低でも相続開始から6か月は住むことができますし、遺産分割がまとまらない間は住み続けることができます。

 

② それ以外の場合(同条項2号)

この場合は、居住建物を取得した者から配偶者短期居住権の消滅の申入れを受けた日から6か月を経過する日までとなります。

2号にあたるのはどのような場合かというと、居住建物について遺言で配偶者以外の者に遺贈や死因贈与がされていたり、遺言で居住建物を配偶者以外の特定の相続人が承継することとされていたり、遺言で配偶者の相続分を0と指定されていたりしていた場合や、配偶者が相続放棄をしたような場合が当たります。このような場合、居住建物は遺産分割の対象とならなかったり、配偶者が居住建物の遺産分割に加われなかったりしますので、1号には当てはまらないことになり、2号となります。

2号の場合、居住建物を取得した者から消滅の申入れがあれば6か月後には出ていかなければなりませんが、それでも相続開始後の最低6か月は住み続けられますので、被相続人が亡くなって急に居住建物を出ていかなければならなくなるという事態は回避することができるでしょう。

 

⑷ 存続期間満了以外の消滅事由

配偶者短期居住権は、存続期間が満了した場合以外でも、配偶者が配偶者居住権を取得したとき、配偶者が死亡したとき、居住建物が全部滅失等したときには消滅します。

また、配偶者が居住建物について善管注意義務に違反したり、居住建物取得者に無断で第三者に居住建物を使用させたたりした場合、居住建物取得者は、配偶者に対する意思表示によって、配偶者短期居住権を消滅させることができます。

 

4 配偶者居住権との違いは?

これまで、配偶者短期居住権について説明してきましたが、この説明だけですと配偶者居住権との違いがピンと来ないかもしれません。そこで、配偶者居住権との違いについて主なものをみてみましょう。

 

⑴ 居住権の取得のしかたが違う

まず、配偶者居住権は、被相続人が遺言で配偶者に配偶者居住権を取得させることとしていたり、生前に死因贈与していたりしないと、遺産分割により取得することになります。遺産分割はまずは協議によりますが、家庭裁判所の審判でも可能です。いずれにしても、被相続人が生前に対策を取っていないと、話合いや法的手続で取得することになります。

これに対し、配偶者短期居住権は、要件を満たせは、法律上当然に発生します。

 

⑵ 存続期間が違う

配偶者居住権は、存続期間を特に定めない場合は、配偶者の終身の間とされています。

これに対し、配偶者短期居住権は、最低6か月は保障されるものの、遺産分割がまとまるまでだったり、消滅の申入れを受けてから6か月後だったりするので、いつまで住み続けられるのか不明確といえます。

つまり、配偶者短期居住権は、被相続人が亡くなってから比較的短期間の配偶者の居住権を確保するものであり、配偶者居住権は、配偶者の長期的な居住権を確保するためのものといえるでしょう。

 

⑶ 利用できる内容が違う

配偶者居住権は、居住建物の使用・収益ができます。つまり、居住建物を賃貸することもできることになります(ただし、第三者に使用・収益させるには、居住建物の所有者の承諾が必要です)。

これに対し、配偶者短期居住権は、居住建物の使用のみです。

 

⑷ 第三者対抗力の有無が違う。

配偶者居住権は、登記することにより、居住建物について、第三者対抗力を備えることができます。つまり、居住建物の所有権が第三者に移転しても、引き続き配偶者居住権を主張することができることになります。

これに対し、配偶者短期居住権には、対抗力がありません。

 

⑸ 遺産分割における財産評価が違う

配偶者居住権は、一定の財産的価値を有する権利といえますので、遺産分割にあたっては、評価額が算定されることになり、それを元にして遺産分割をすることになります。つまり、配偶者の相続分から配偶者居住権の価値は控除されることになります。

これに対し、配偶者短期居住権は、配偶者が居住建物の遺産分割に参加する場合には、遺産分割まで6か月以上かかるときであっても、遺産分割により居住建物の帰属が確定する日までの比較的短期間ですし、法定の居住権ですので、遺産分割において配偶者短期居住権の財産的価値を配偶者の相続分から控除する必要はないとされています。

 

5 さいごに

配偶者居住権と配偶者短期居住権の関係は、遺言がないシンプルなケースでいえば、被創造人の死亡から遺産分割成立までは配偶者短期居住権、遺産分割成立後は配偶者居住権、ということがいえるでしょう。

配偶者短期居住権は法定の権利ですが、配偶者居住権は設定方法や存続期間、財産評価など検討すべき内容がありますので、生前に配偶者居住権を検討したいというときは、専門家に相談した方が良いでしょう。