遺産に不動産がある場合、どうやって評価するの?遺産分割での疑問に弁護士が説明

遺産に土地や建物の不動産が含まれていることは少なくないでしょう。不動産が含まれていると、遺産の分割方法を巡って、相続人間で争いとなることもあります。争いがなくても、適切に分割するためには、不動産の評価額を決めることが必要となるでしょう。今回は、相続財産における不動産の評価について説明したいと思います。

 

1 どのようなときに不動産の評価が必要?

例として、被相続人Xの相続財産として土地と預貯金があり、相続人が子AB2人だったとしましょう。

相続人ABに争いはなく、半分ずつ分け合うということで話が付いているとしても、土地については、共有にするのではなく、Aさんが取得したいという場合、土地の評価額が決まらないことには、預貯金をどのように分けるか、もしくは代償金をいくらにするのかが決まらないことになります。

また、Aさんが、被相続人Xの介護をしていたから自分の方が取り分は多いはずだと主張したり(寄与分の主張)、もしくはBは昔Xから多額の援助を受けていたから、半分ずつ分けるのはおかしいと主張したり(特別受益の主張)した場合、当事者同士で解決するのが難しくなり、家庭裁判所の調停・審判をせざるを得なくなったりします。そうすると、遺産の総額を算出することが必要となり、やはり土地の評価額を決める必要があります。

 

2 不動産の評価が不要な場合は?

不動産の評価額をわざわざ決めなくてもよい場合もあります。

たとえば、法定相続分に従って遺産を分割することとし、不動産については相続分に従って共有にすることで合意している場合には、不動産の評価額を決める必要はないでしょう。

また、不動産は売却して売却代金を相続分に従って分けることにした場合(換価分割)にも、不動産の評価額を決める必要はないといえます。

 

3 不動産の評価額は、いつの時点のものが必要?

一般的に、調停・審判に持ち込まれるような遺産分割の事案の場合、相続開始時と遺産分割時の2時点の評価額を決める必要があるものが多いといえます。

これは、寄与分や特別受益の判断においては、相続開始時の遺産で評価するのが原則である一方で、実際の遺産分割にあたっては、遺産分割時で評価することになっているためです。

寄与分や特別受益については、条文に「…相続開始の時において有した財産の価額…」(民法903条第1項、904条の2第1項)という規定があるため、相続開始時が基準とされています。

もっとも、遺産分割にあたっては、相続開始から時間が経っている場合もあり、価格が変動していることもあることから、遺産を公平・適切に分配するために、相続開始時ではなく遺産分割時で評価すべきとされています。

 

4 土地の評価額はどうやって決める?

では、具体的に不動産の評価額はどうやって決めるのでしょうか。

まず、遺産分割における不動産の評価額は、基本的に相続人間の合意で決めることができます。なので、どのような方法であっても、相続人間で合意できるのであれば構わないことになります。

とはいえ、やはり不動産の素人には目安も分からないでしょう。そのような場合、合意形成のために、様々な指標が用いられることがあります。

① 固定資産税評価額

土地の評価額の参考として、固定資産税評価額が用いられることもあります。固定資産税評価額は、一般に公示地価の7割程度といわれています。ですので、固定資産税評価額を0.7で割れば、おおよその評価額の目安とすることができます。

ただし、固定資産税評価額は、1月1日を基準日として3年に1回しか評価替えがなされません。

固定資産税評価額は、固定資産税の納税通知書等に記載されています。各自治体から評価証明書を入手することもできます。

② 相続税評価額

相続税評価額を目安とすることもあります。路線価といえば馴染みがあるかもしれません。路線価がない土地の場合は、倍率方式により計算することになります。相続税評価額は、一般に公示地価の8割程度といわれています。ですので、0.8で割れば、おおよその評価額の目安とすることができます。

路線価は、1月1日を基準日として、毎年発表されます。また、調査地点が公示地価よりもはるかに多いという特徴があります。

路線価図は、国税庁のウェブページでも確認することができます。

③ 公示地価

公示地価は、1月1日を基準日として毎年発表されています。一般に、時価に近いと言われています。ただし、調査地点が少ないこと、あくまでも調査地点の評価額であることから、そのまま具体的な遺産である土地の評価額の参考にすることができる場面はそれほど多くないかもしれません。

公示地価と次の④都道府県基準地標準価格は、国土交通省のウェブページで確認することができます。

④ 都道府県基準地標準価格

これは、都道府県が発表しているもので、公示地価と同様、時価に近いとされています。ただし、公示地価と同様、調査地点が少ないので、遺産である土地の近隣に調査地点があるかどうかは分かりません。公示地価と異なり、7月1日を基準日としている点に特徴があります。

⑤ 不動産業者による査定

①~④に挙げたような公的な基準ではなく、不動産業者による査定が用いられることもあります。現地調査を行ったうえでの査定や、無料でできる簡易査定なども、頼めばやってくれる不動産業者はたくさんあります。地元の取引を多く取り扱っている不動産業者であれば、一定の信頼感があると思います。

ただし、査定は多かれ少なかれ幅のあるものであり、依頼者の意向に沿った査定がなされることもあるため、一方当事者の取ってきた査定では他方当事者が納得しないということもありがちです。

そこで、当事者がそれぞれいくつかの業者から査定を取り、平均額を算出するなどの工夫をして合意を取り付けるということも行われます。

 

5 相続人間で評価額の合意ができなかったら?

相続人間で土地の評価額の合意ができない場合、家庭裁判所が裁量権を行使して、評価をすることになります。その場合、基本的に裁判所における正式な鑑定が試みられるということになります。

裁判所の鑑定では、裁判所が選任した中立的な不動産鑑定士等の専門家が評価を行うため、当事者も納得しやすいといえます。

もっとも、それなりの費用がかかり、その費用については、予納が求められます。そこで、誰がいくら予納するかで揉めてしまい話が進まないこともあります。

鑑定は、上記のとおりそれなりの費用がかかるので、当事者の誰も積極的に望まないのが一般的でしょう。そこで、鑑定を回避するために当事者それぞれが妥協しながら合意に向けて話し合っていくのが通常といえます。

 

6 建物の評価額はどうやって決める?

土地と異なり、建物の場合、評価額は一般的に固定資産税評価額が目安とされています。

 

遺産に不動産が含まれている場合、その評価をめぐって争いになることも少なくありません。不動産は一般に金額が大きく、遺産全体に占める割合も多くなりがちな一方、分割することは困難なため、遺産をどのように分けるか、代償金をいくらにするかといった問題で話がまとまらず、調停・審判になってしまうこともあります。

ただ、当事者間では感情的になってしまい話が進まなくても、弁護士に依頼し、第三者の冷静な意見を交えることで、解決へと進むことができます。最終的に審判となってしまう場合でも、専門家の立場から的確な主張をしておかないと、適切に自己の主張を認めてもらえない可能性もあります。

遺産分割をスムーズに進めたい、もしくはもう当事者間では解決できない、といった場合には、はるにれ法律事務所までお気軽にご相談ください。