遺言は書けばいいだけじゃない!?遺言を残すときに知っておきたいこと

1 はじめに

自分が死んだ後、遺産の分配で相続人に揉めてほしくない、ある特定の人に遺産を優先的に配分したい、など自分が死んだ後のことが心配になって遺言を残すことを考える方もいるでしょう。
しかし、いざ遺言を書くといっても、どうやって書けばいいのか分からない、そもそも遺言についてよく知らない、ということがあるかもしれません。
実は、遺言は、何か紙に書いておけば遺言としての効力が生じるというわけではなく、法律でその方式が定められています。その方式に則って遺言を残さないと、最悪の場合、遺言が無効となってしまう可能性もあります。
そこで、今回は、遺言の種類について説明していきたいと思います。

2 遺言の種類

まず、遺言の方式には、普通の方式と特別の方式があります。ただ、特別の方式は、死亡の危急に迫った者、伝染病隔離者、在船者など、特別な場合の方式ですので、ここでは省略し、普通の方式について説明します。

普通の方式には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があります。

⑴自筆証書遺言

自筆証書遺言は、その名のとおり、自筆で書く遺言です。相続財産の目録は自筆しなくてもよくなりましたが、それ以外は全文を自筆で書く必要があります。それ以外の要件としては、日付と氏名を自書し、押印をすることです。
遺言書が複数枚にわたる場合は、法定の要件ではありませんが、事後の疑義が生じないよう契印をすべきでしょう。
相続財産の目録を自書ではなく他人に書いてもらったり、ワープロで作成したものをプリントアウトしたりして作成した場合は、自書でない全てのページに署名・押印をする必要があります。
また、自筆証書遺言では、加除その他の変更をする場合、その場所を指定し、変更した旨を付記して署名し、かつ変更場所に押印しなければ、加除その他の変更の効力が生じません。

自筆証書遺言は、いつでも自分だけで作成することができ、簡単・低額で済ませられるといえます。ただ、形式的な要件を満たしていたとしても、遺言の内容の解釈に疑義が生じたり、真正な遺言なのかという争いが生じたりすることもあり、遺言者の思い描いたとおりに遺言が実現できるかという心配は残ってしまうといえるでしょう。できる限り疑義を生じさせないよう、自筆証書遺言を作成しようとする場合でも、弁護士等の専門家に相談したほうがよいといえます。

自筆証書遺言は、その保管についても不安な面があるといえます。誰かに見られないように隠しておくと、そのまま発見されない恐れもありますし、かといって保管場所を教えると、内容を見られてしまう可能性もあります。
そのような不安を払しょくするため、自筆証書遺言保管制度が始まっています。
これは、自筆証書遺言を法務局が保管してくれるサービスです。手数料も低額ですし、利用しやすいといえます。
また、自筆証書遺言保管制度を利用した場合、後に述べる検認手続が不要となるというメリットもあります。
自筆証書遺言を検討されている方は、併せて自筆証書遺言保管制度の利用も検討してみてはいかがでしょうか。ただし、一定の書式などのルールがありますので、この制度を利用しようとする場合は、遺言書を作成する前に、確認しておいた方がよいでしょう。

⑵公正証書遺言

公正証書遺言は、公証役場で公証人に作成してもらうものです。ただ、入院中など公証役場へ赴けない場合には、公証人が出張してくれるサービスもあります(費用は掛かりますが。)。

公正証書遺言は、証人2人以上の立会いと遺言の趣旨を公証人に口授することが要件とされています。
口授については、口がきけない者の場合、通訳人の通訳や自書により口授に代えることができます。
実際の作成手順としては、まず公証人と遺言の内容を打合せして、実現したい遺言の内容に沿った原案を作成します。
証人は、未成年者や利害関係人(推定相続人、受遺者、それらの配偶者など)はなることができません。自分で証人を用意してもよいですし、自分で用意できない場合は、公証役場で証人を用立ててもらうこともできます(ただし日当が発生します。)。
原案が作成できると、遺産の額や遺産を分け与える相続人・受遺者が把握できますので、それに従って費用が算定されます。なお、費用は法令で定められていますので、どこの公証役場で作成しても同じです。
費用を納め、期日に公証役場へ赴いて、公証人に遺言の趣旨を口授すれば、公正証書遺言が作成されます。
なお、公正証書遺言の原本は公証役場で保管することになっており、遺言者には正本や謄本が渡されます。なお、正本とは、原本と同じ効力をもつもので、謄本とは、コピーのことです。各種機関で遺言に沿った手続をするには、正本が必要となりますので、大事に保管しておいてください。ただ、紛失・毀損してしまったとしても、正本も謄本も公証役場で再発行できますのでご安心ください。

公正証書遺言は、信用性が高いといえます。公証人は法律に精通していますので、遺言者の思いに沿った条項を作成してくれるでしょう。また、原本が公証役場に保管されますので安心ですし、遺言が存在するかという検索もできますので、便利です。加えて、あとで述べるように、公正証書遺言には検認手続が不要なので、速やかに遺言執行へと進むことができます。

公正証書遺言を検討する場合でも、弁護士等の専門家に依頼するメリットはあります。弁護士に依頼すれば、遺言書の原案は弁護士が作成しますので、公証人との打ち合わせがスムーズです。また、公正証書遺言の作成にあたっては、相続人関係・相続財産関係を確認するために戸籍・登記・通帳など各種書類が必要となり、これらを自分で収集するのは一苦労ですが、弁護士等に依頼すれば、弁護士等の方で収集できる書類もありますので、負担は少なくなるといえます。分からないことや心配なことを気軽に相談できるのもメリットといえるでしょう。

⑶秘密証書遺言

秘密証書遺言は、遺言の内容を他人に知られないようにするための方式です。
要件としては、①遺言を作成し、署名・押印すること、②その遺言を封じ、遺言に用いたハンコで封印すること、③その封書を公証人と証人2人以上の前に提出して、自己の遺言書である旨と遺言書の筆者の氏名・住所を申述すること、④公証人が、日付及び遺言者の申述を封紙に記載して、遺言者・証人とともに署名し、押印すること、です。
この要件からも分かるとおり、遺言書は、自書でなくて構いませんし、他人に作成してもらっても構いません。他人にワープロで作成してもらった場合、ワープロで作成した者が「筆者」となります。ただ、裁判例が多くないため、どこまで作成すれば「筆者」に当たるのかは明確ではありません。

なお、秘密証書遺言の方式を欠いていたとしても、自筆証書遺言の方式が整っていれば、自筆証書遺言として効力を有することになります。

秘密証書遺言は、その内容を秘密にしておきたいという場合はメリットがあるともいえますが、デメリットも少なくありません。
まず、遺言の内容は秘密にできますが、裏を返すとチェックが入らないということですので、あとで遺言の内容に疑義が生じたり、遺言が無効とされたりするリスクがあります。また、公証人の立会いが必要ですが、公正証書遺言のように公証役場では保管してくれませんし、自筆証書遺言保管制度も利用できませんので、紛失・毀損のリスクもあります。
ただ、弁護士に依頼することにより、内容の疑義に関しては取り除くことができますし、保管までお願い出来ることもあるでしょう。

3 注意点

以上、遺言の種類について説明してきましたが、共通して注意しなければならないことがいくつかあります。

 まず、遺言は、2人以上が共同して遺言を作成することはできないということです。夫婦で遺言を残すという場合であっても、各自が別々に作成する必要があります。

 また、遺言で共通して問題になるのが、遺言能力です。遺言は、15歳以上であれば誰でもすることができますが、それとは別に、遺言能力が必要です。遺言能力とは、簡単にいえば、遺言の内容・法的効果を理解することのできる能力のことです。これは一概に判断することはできず、遺言の内容が簡単であればその簡単な内容を、複雑であればその複雑な内容を理解することができたかということが、周辺事情から判断できるかによるでしょう。
遺言能力は、自筆証書遺言、特に弁護士が関与していない場合などに争われがちですが、弁護士が関与していても争われることがありますし、少ないながら公正証書遺言であっても争われることはあります。公証人は、遺言能力の有無を判断して公正証書を作成するわけではありません。いずれに方式の場合であっても、遺言者が高齢で判断能力が乏しいと考えられるような場合、遺言により不利益を被る相続人から、遺言能力を欠く遺言であるとして遺言無効を主張されることがあるのです。
これに関しては、あとで争いになるのを防ぐためには、遺言作成の近くで認知症の診察を受けて医師の診断書をもらったり、定期的に医師による認知症検査などを行ってもらったりするなどして予防しておくことも必要なのではないでしょうか。また、自筆証書遺言や秘密証書遺言の場合は、遺言書とともに遺言書作成の経緯などをビデオ撮影して証拠を残しておくということも有用です。

 続いて知っておいた方がよいのは、検認手続です。
遺言者には直接関係ありませんが、遺言書は、相続発生後、遺言を執行する前に、家庭裁判所で検認手続をする必要があります。
遺言書の保管者は、相続開始を知った後、遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出して検認の請求をしなければなりません。遺言書の保管者がおらず相続人が遺言書を発見したときも同様です。
検認とは、裁判官や相続人が集まって、遺言書の現状を確認する手続です。検認の請求をしてから期日までは一定の期間がかかりますので、おのずと遺言執行はそれだけ遅れることになります。
ちなみに、検認をせずに遺言を執行したり開封したりすると5万円以下の過料が法定されていますので、注意が必要です。
なお、公正証書遺言及び自筆証書遺言保管制度を利用した場合は、検認は不要とされています。したがって、これらの場合は、速やかに遺言執行に移ることができるというメリットがあります。

4 おわりに

今回は、遺言書の種類や要件などを中心に説明しました。遺言の内容や執行については触れていませんので、また別の機会にこれらについても説明したいと思います。