残業代を請求されたら?会社側が知っておきたいこと

退職した従業員から残業代を請求されたことはありますか?

在職中には残業代の話題など出さなかったような従業員でも、退職したとたん残業代を請求してくるということも珍しくありません。

今回は、残業代を請求された場合に会社が知っておきたいことをご説明します。

 

1 残業代を請求されたらどういう流れで進む?

 

突然、残業代を請求されても、通常業務とは異なる請求ですし、精通する従業員もいないことから、戸惑ってしまう会社もあるでしょう。

残業代請求は、従業員自ら請求する場合もありますが、代理人弁護士から内容証明郵便等の通知書が届くことが多いのではないかと思われます。

通知書が届いたら、その後は、請求額を基にした交渉となります。

交渉で金額の合意に至れば、合意書を取り交わし、支払いをして解決ということになります。

しかし、双方の隔たりが大きく、交渉で解決に至らないということもよくあります。

また、一般的に、労働者側は、最初の通知書により一時的に消滅時効の完成を止めていますが、6か月以内に法的手続を採らなければならないという制限を受けています。ですので、交渉が長引き、6か月以内に交渉により示談が成立する見込みがない場合、交渉が打ち切りとなり法的手続へ進む可能性が高まります。

この場合、労働者側の選択により、労働審判又は訴訟といった法的手続が考えられます。

法的手続へと進んだ場合は、いずれ解決することになりますが、解決へと至るルートは様々です。

労働審判は早期解決を目的とした手続ですが、和解に至らず労働審判が出されても、当事者のいずれかが異議を出せば、訴訟へと移行します。

労働者の選択によっては、労働審判を経ずに最初から訴訟となる場合もあります。

訴訟では、双方の主張・立証を尽くすことになり、それに応じて期日が繰り返されます。一般的には、当事者が絶対に和解しないという場合でなければ、裁判官が時機をみて和解の試みをします。和解が難しいとなったら、判決へと進むことになります。

第一審で判決が出ても、不服があれば控訴が可能ですので、当事者のいずれかが控訴すれば、訴訟はまだ続くことになります。

訴訟になれば、通常は、和解が成立するか、判決が確定して終了することになります。確定した支払義務に従って支払いをなすことになるでしょう。

 

2 弁護士から通知書が届いたら?

 

弁護士から通知書が届く場合、その内容は、抽象的に残業代を請求するとともに資料開示を求めるもの、具体的な金額を請求するとともに資料開示を求めるもの、具体的な金額を計算根拠とともに明示するものなど様々です。

会社側としては、資料開示を求められた場合、応じるか否か、応じるとしてどの範囲で応じるかといった検討をしなければなりません。もっとも、むやみに拒否しても、いらぬ争いを生みかねませんし、不必要に訴訟等に発展して無駄に時間・労力・出費をかけなければならないことにもなりかねませんので、注意が必要です。

次に、具体的な金額が明示されている場合には、金額の算定根拠を示すよう求めることも重要です。

金額の算定根拠が示された場合には、その検証が必要となります。

もしかしたら、残業代の計算は機械的に計算できるもので、争う余地がないものと誤解している方がいるかもしれません。

たしかに、残業した時間が確かなのであれば、残業代は、ある程度機械的に計算できる即面があるといえます。しかし、実は、残業代の計算には様々な論点がありますし、計算の前提とした労働時間や手当の性質などについて双方で見解が異なる場合もよくあります。つまり、労働者側が妥当と考えて計算した残業代の金額と、会社側が妥当と考えて計算した残業代の金額は、一致しないことのほうが多いといえます。

「弁護士が計算して算定したんだから争えないんだろう…」と安易に捉えずに、実は十分に争う余地のある論点が含まれていて、それによっては大きく金額が変動するかもしれないということは知っておくべきでしょう。

 

3 労働審判になったら?

 

労働者が労働審判を提起した場合、会社側にも申立書が届きますが、その時点で期日は決まっており、しかも期日まであまり日数がないことが多いといえます。しかも、会社側は、期日前に答弁書を作成して提出しなければなりません。時間的にはタイトだといえるでしょう。

労働審判は、早期解決を目的とした手続で、3回以内に終わることになっています。しかも、最初の期日で事実関係の確認や言い分の確認などがなされるため、書面の提出は、原則として、労働者側は申立書、会社側は答弁書のみということになります。つまり、双方とも、申立書や答弁書で、言いたいことはすべて出し尽くすことが求められます。

また、上記のとおり、最初の期日では質問等をされることになりますし、早期解決のために早い判断を求められるため、代理人だけでなく当事者も出席することが求められます。会社側であれば、実情の分かる社員や決定権のある社員・役員の出席が望まれるといえるでしょう。

労働審判では、書面や聞き取った結果を基にして、和解の試みがなされます。残業代請求であれば、金額のすり合わせということになるでしょう。

双方が合意に至ることができれば、裁判上の和解が成立します。これは確定判決と同一の効力を持つことになります。

しかし、重要な論点で双方が譲れないなどにより金額の隔たりが埋まらないこともあります。

3回の期日で和解に至らなければ、裁判所から労働審判が出されることになりますが、労働審判は、判決と比べるとはるかに簡単な内容に過ぎません。

それでも、労働審判が確定すれば、やはり確定判決と同一の効力を持つことになります。しかし、確定前に当事者のどちらかが異議を出せば、労働審判の効力は失われ、自動的に訴訟へ移行することになります。ですので、異議を出すか否かは、訴訟を見越して検討することになります。

 

4 訴訟になったら?

 

訴訟では、期日の回数に制限はなく、基本的に、双方の主張・立証が出尽くすまで続くことになります。

訴訟になったとしても、必ず判決に至るわけではなく、時機をみて、裁判官が和解の試みをするのが一般的でしょう。その際、裁判官から、各論点について心証開示がある場合もあります。双方が主張・立証を出し尽くして裁判官の理解も深まった段階で心証が開示される場合は、やはり重みがあるといえるでしょう。とはいえ、必ず和解の試みの時点で開示された心証どおりの判決が出るとは限りませんので注意が必要です。

和解をするか、判決に至るかは、最終的には当事者の判断となります。

判決に至った場合、勝っても負けても判決文を隅々まで確認することが重要です。全面的勝訴ということもあるでしょうが、各論点について勝ったり負けたりすることもよくあります。そのような場合は、控訴するか否かを検討することになります。

なお、会社側としては、判決に至ると、付加金が付されることが多いといえます。付加金は、最大で未払残業代と同額となりますので、そのまま判決を確定させてしまうと、会社側としては、手痛い出費を余儀なくされてしまいます。付加金が付されていることは、基本的に控訴するに値する理由といえるでしょう。

 

5 弁護士への依頼を検討しましょう

 

会社が労働者から未払残業代を請求された場合、請求額を鵜呑みにせず、しっかりと内容を検討することが重要です。

また、残業代の中身の検討以外にも、どういう対応をしたらよいか、その後の見通しなども踏まえて検討する必要があるでしょう。

しかし、残業代請求に対応する知識やそれに労力を割ける社員がいる会社は多くないのではないでしょうか。

残業代請求に安易な対応をしてしまうと、噂を聞いた他の元従業員から残業代請求される可能性すらあるでしょう。

残業代請求をされたら、無理に会社内で解決しようとせずに、弁護士へ依頼することを検討したほうがよいといえます。

また、今後の対策面も重要です。

会社の規定や給与体系に不備がないかどうかチェックし、もしあるのであれば、きちんと修正していくことも、予防という意味では非常に重要です。

その際には、就業規則の不利益変更に当たらないか、どういった手順を踏んでおけばよいか、弁護士のアドバイスのもとで進めた方がよいでしょう。

 

はるにれ法律事務所では、労働者側だけでなく、会社側の代理人としても対応することができます。また、個別の紛争だけでなく、就業規則・賃金規程のチェックなど予防法務にも対応しています。

残業代請求されてどうしよう、というときだけでなく、今後のために残業代に関係する事項を整理しておきたいというときでも、お気軽にご相談ください。