残業代の請求には時効があります!時効について少し詳しく解説
長年会社に勤めてきて,結構残業もしているはずだけど,残業代は出ていない…
もしかしたらそんな方もいるのではないでしょうか。
しかし,残業代を請求しても,もしかしたら過去の分について「時効」により支払いを受けられないという可能性もあります。
今回は,残業代の時効についてご説明します。
時効とは?
時効には取得時効と消滅時効がありますが,残業代で問題となるのは消滅時効です。
消滅時効とは,簡単にいえば,権利があっても長年権利行使していないと,権利行使できなくなるという制度です。
制度趣旨はいろいろとありますが,今回は省略します。
何年で時効になる?
時効期間は法律で定められています。近年,法律が改正されたので少しややこしいですが,残業代などの賃金の請求権は,令和2年3月31日までのものは2年,4月1日以降のものは3年(本来は5年ですが,当分の間は3年とされています。)です。なお,残業代とは少しずれますが,退職手当の請求権は,従前どおり5年です。
残業代の時効の起算点は?
上記のとおり,残業代は,ざっくりいえば,2年または3年(本コラム掲載時では2年のものしか時効との関係では問題となりませんが)で時効期間が経過することになります,ただ,もう少し詳しく説明する必要があります。
多くの方は毎月給料日があって,その日に1か月分の給料を受け取ると思います。つまり毎月の給料の締め日と支払日が決まっています。この場合,実際に「給料を支払え」と言えるのは支払日からということになります。そして当該支払日に支払えと言えるのは当該支払日に対応する締め日の期間分です。
つまり,残業代の時効は,締め日までの分が,支払日(正確にはその翌日)から進行することになります。このように,多くの方の場合,残業代は1か月分ごとに進行することになります。
具体例を挙げると,月給制で毎月の給料の締め日が月末で支払日が翌月25日という会社の場合,本コラム掲載日(令和3年4月23日)の2年前である平成31年4月23日より前の支払日の残業代(具体的には平成31年3月25日支払分以前のもの)は,時効期間が経過していることになります。しかし,平成31年3月1日~31日までの残業代の支払日は同年4月25日ですので,まだ時効期間は経過していません。
以上のとおり,支払日ごとに時効が進行していきますので,支払日が週ごとだったり働いた日ごとだったりすれば,それに応じた残業代がそれぞれ進行していくことになります。
時効の更新(中断),完成猶予とは?
上記のとおり,時効はそれぞれの起算点から進行していくことになりますが,一定の事由があると,その時からやり直しになったり(更新),時効の完成が猶予されたり(完成猶予)することがあります。
なお,法改正前は,「更新」ではなく「中断」という用語でしたが,その時からやり直しという意味だということが分かりにくいことから,「更新」となりました。
時効の更新の例としては,権利の承認があります。会社が特定の未払残業代の存在を認めれば,その時から新たに時効期間が進行することになります。また,旧法下の判例では,一部の弁済も承認にあたるとされています。
時効の完成猶予の例としては,催告があります。時効期間経過間際になって催告しても,催告から6か月間は時効が完成しません。
他にも,法改正により,協議を行う旨の書面による合意がある場合,合意から1年・1年未満の期間を合意したときはその期間・一方当事者が協議の続行を拒絶する書面による通知をしたときはその時から6か月のいずれか早い時までは時効の完成が猶予されることになりました。
時効の援用とは?
実は,時効期間が経過したからといって,必ず残業代を請求できなくなるわけではありません。
時効は,時効期間経過後に相手方が時効を援用することにより初めて効力を生じます。いいかえれば,会社が時効を援用しなければ,時効期間が経過してしまった残業代でも支払いを受けられる可能性があるのです。ただ,現実的には,時効の援用をされることが多いといえます。
残業代の請求は早めが肝心!
以上のとおり,残業代の請求には時効がありますので,早めに請求しないと過去の分について支払を受けられなくなる可能性があります。特に,すでに退職している方は,時間の経過とともに請求できる期間が減っていってしまいます。
弁護士に残業代請求を依頼すれば,まず内容証明郵便等で催告することで時効の進行を止め,6か月の猶予期間中に計算・請求・交渉などを行います。そして示談交渉がうまくいかないようであれば,その期間内に裁判上の請求(労働審判や通常訴訟)をすることもできます(裁判上の請求をしている間は時効の完成が猶予されます。)。なお,協議を行う旨の書面による合意については,残業代請求の場合は前記のとおり通常1か月ごとに時効になってしまうため,なかなか使いづらいのではないかと思われます(というのも,催告による時効の完成猶予中に,協議を行う旨の書面による合意をしても,その効力はないとされているため,時間的な制約から困難なことが多いのではないでしょうか。)。
このように,残業代請求は,ある意味時間制限がありますので,ご自身でいろいろとやってみてから弁護士に相談したのでは,場合によっては不利な状況になっているという可能性もあります。
そういう観点からは,未払残業代が気になったら,まずは弁護士に相談してみる,というのが良いのではないでしょうか。