除外賃金とは?残業代を計算するときに月給に含める手当・含めない手当を弁護士が解説

残業代を計算しようとして自分の給与明細を確認してみた際に,どの費目を月給に含めていいのか迷ったことがある方もいるかもしれません。

今回は,残業代を計算する際に除外しなければならない賃金について説明します。

 

なぜ賃金の確認が必要なのか

 

まず,残業代の計算をする際になぜ賃金の確認が必要となるのでしょうか。

残業代を計算する際には,「算定基礎時給」つまり自分の賃金を時給換算する必要があります。それを算出するには,月給制の場合,「通常の労働時間又は労働日の賃金」を月所定労働時間(通常は月平均所定労働時間)で割り算することになります。その際に自分の「通常の労働時間又は労働日の賃金」がいくらなのかということが必要となるのです。自分の月給=「通常の労働時間又は労働日の賃金」という場合もありますが,通勤手当など除外しなければならない賃金が含まれていないか確認する必要があります。

「通常の労働時間又は労働日の賃金」が高くなれば時給も高くなりますので,その分,残業代の単価が高くなることになります。ただ,本来除外すべき賃金まで含めて計算してしまうと,正当な金額よりも高く計算されてしまい,思わぬ見込み違いということが生じかねませんし,過大請求としてトラブルの種にもなりかねません。

そこで,何を除外すべきかについて理解しておく必要があるのです。

 

除外賃金は法令で定められている

 

では,どのような賃金を除外すべきでしょうか。

まず,労働基準法・同規則によって限定的に定められている以下の賃金は除外する必要があります。

・家族手当

・通勤手当

・別居手当

・子女教育手当

・住宅手当

・臨時に支払われた賃金

・一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金

これらの賃金は,その名称にかかわらず実質的に判断することとなります。たとえば,「家族手当」は,労働の内容や量とは関係ない労働者の個人的事情によって支給される賃金なので除外されることになっていますが,扶養家族の有無や人数にかかわらず一律に支給されているようなものは「家族手当」とはいえませんので,除外する必要はないことになります。一方で「生活手当」など別の名称であっても,扶養家族の有無や人数によって算定される手当であれば「家族手当」に該当することになるため,除外する必要があります。同じように,通勤手当名目であっても,距離や交通手段にかかわらず一律支給されるようなものは「通勤手当」とはいえないことになります(なお,支給される通勤手当に上限額があるのは別問題です。)。

「臨時に支払われた賃金」とは,一般に,臨時的・突発的事由に基づいて支払われたもの及び結婚手当等支給条件はあらかじめ確定されているが支給事由の発生が不確定であり,かつ非常に稀に発生するもの,とされています。通常の感覚からしても,そのような手当てが支給された月だけ時給が高くなるというのはおかしいと感じるのではないでしょうか。ただ,上記解釈をみても,かなり限定された内容になっていることが分かると思います。

「一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」とは,賃金算定期間が1か月を超えるものと考えられています。半期ごとの評価などを基に額を決定し支給される一般的な賞与などはこれに当たるといえるでしょう。しかし,年俸制で,年度当初に年俸額が定められ,その一部が賞与として支払われるような場合については,支給額も支給時期も確定しているので,毎月支給される賃金と性質は異ならず,除外賃金には当たらないと考えられています。

 

その他の除外すべき賃金

 

除外すべき賃金は上記のとおり法定されているので,それ以外については,原則として「通常の労働時間又は労働日の賃金」に含めることになります。

もっとも,残業代として支給されている残業手当は,当然ながら「通常の労働時間又は労働日の賃金」から除外することになります。

ただ,ここで問題となるのが,本当に既払の残業代といえるものなのかどうかということです。毎月の残業時間に応じて1円単位で毎月異なる金額が支払われているのであれば,その計算額が正しいかどうかはともかく残業代として支払われているものだろうといえるでしょう。その場合は,当該賃金を除外した「通常の労働時間又は労働日の賃金」を基に算定基礎時給を計算し,算出された残業代から当該賃金を既払の残業代として差し引くことになりますので,追加で請求することができるのは差額がある場合の差額分だけということになります。

固定残業手当として支払われている手当がある場合,残業代として明確なのであれば,上記と同様に既払の残業代として処理することになります。注意が必要なのは,手当の名目が「営業手当」などその名称から直ちに残業手当だということが分からないような手当の場合です。この場合は,就業規則・賃金規程の規定等を確認する必要があります。当該手当が残業代以外の趣旨を含んだものでどの部分が残業代としての手当なのか明確でないような場合には,それは残業手当に当たらないとして主張することのできる余地がでてきます。当該手当が固定残業手当に当たらないのであれば,当該手当も含めて算定基礎時給を計算して残業代を算出することになりますが,そうでない場合は上記と同様に当該手当を除外して算定基礎時給を計算し,さらに算出された残業代から当該手当を既払の残業代として差し引くことになりますので,請求することのできる残業代の金額が大幅に変わってきます。

 

まとめ

 

以上のとおり,きちんと残業代を計算しようとすると,「通常の労働時間又は労働日の賃金」を確定させるだけでも一つ一つ念入りに検討する必要があります。

残業代請求を弁護士に依頼すれば,そういった検討を含めて弁護士に任せてしまうことができます(もちろん,聴き取り調査などにはご協力いただくことになりますが。)。

思わぬ見込み違いとならないためにも,未払残業代が気になったら,まずは弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。