業務委託?労働者?その判断基準は?

一般の労働者と同じように働いているけれども,契約書は業務委託契約になっている…。

契約書のタイトルを盾に,あっさり契約終了にされたり,残業代が支払われないことに疑問を持つ方もいるのではないでしょうか。

今回は,いわゆる「労働者性」について説明していきたいと思います。

 

「労働者」とは?

法律上,「労働者」とは実はいくつか定義がありますが,労働契約法では「使用者に使用されて労働し,賃金を支払われる者」,労働基準法では「職業の種類を問わず,事業または事務所に使用される者で,賃金を支払われる者」とされています。ただ,一般に,労働契約法と労働基準法上の「労働者」とはほぼ同じ概念であるとされています。

 

労働契約法や労働基準法における「労働者」に当たると,これらの法律の適用を受けることになります。つまり,解雇権濫用法理や,残業規制の適用を受けるということになります。

 

「労働者」か否かはどうやって判断する?

では,労働者なのかどうかは,どのように判断するのでしょうか。

上記法律の規定では未だ抽象的で分かりにくいことから,その判断基準について研究がなされ,昭和60年12月19日に当時の労働省が「労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)」としてまとめています。

 

この報告でも触れられていますが,まず大事なことは,労働者か否かを判断するにあたっては,形式的な契約形式ではなく,実質的な使用従属性を判断することになるということです。つまり,契約書のタイトルが「業務委託契約」となっていたとしても,そこから直ちに労働者性が否定されるわけではありません。

 

上記報告で労働者性を判断するための判断材料として挙げられているのは,おおむね次のようなものです。

・仕事の依頼,業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無

仕事の依頼や業務従事の指示等に対して諾否の自由があれば,労働者性を否定する重要な要素になるといえます。ただ,契約によっては,一定の仕事を包括的に受諾した場合,そこに含まれる個々具体的な仕事の依頼や業務従事の指示等に対して諾否が制限されることがあるのは当然といえば当然ですし,専属下請けというような場合も仕事の依頼を拒否することはできないでしょうから,諾否の自由がないということについては慎重に判断する必要があるといえるでしょう。

・業務遂行上の指揮監督の有無

具体的な指揮命令を受けていれば,労働者性を肯定する重要な要素といえます。ただ,具体的な指揮命令なのか,一般的・概括的な指示等に過ぎないのかは微妙なこともありますので,個々の事案により,具体的にどのような指示等を受けているのかを検討する必要があるでしょう。

・拘束性の有無

勤務場所や勤務時間を指定されて管理されていることは,労働者性を肯定する重要な要素といえます。ただ,業務の性質上,勤務場所が限定されたり,業務時間が限定されたりということはありますので,場所や時間の指定が業務の性質によるものなのか,業務を指揮監督するためなのか,慎重に判断する必要があります。

・代替性の有無

労働者であれば,本人に代わって他の者が労務を提供するということは考えにくいですので,本人が補助者等別の者に業務を行わせることが認められているといった代替性が認められていれば,労働者性が否定される材料の一つになるといえます。

・報酬の額・算定方法

たとえば報酬が他の労働者と変わりなかったり,欠勤したら控除される,残業したら手当がつくといった事情があるなどのように,報酬が労務時間に対する対価と判断できるような場合には,労働者性を補強する事情といえるでしょう。

 

また,労働者性の判断を補強する要素として,その者の「事業者性」や専従性の程度などを考慮すべきときもあるとされています。

・機械,器具の負担関係

高価な機械,器具を本人が所有して使用している場合,「事業者」としての性格が強くなりますので,労働者性を弱める要素になるといえます。

・報酬の額

報酬が他の労働者と比べて著しく高額な場合は,「事業者」に対する代金支払いと考えられることから,労働者性を弱める要素になるといえます。

・専従性の程度

「副業」が制度上制約されていたり時間的に事実上困難な場合は,専従性の程度が高く,経済的に従属していると考えられることから,労働者性を補強する要素になるといえます。ただ,専従下請けのような場合もありますので,このことから直ちに労働者性が肯定されるわけではないことに留意が必要でしょう。

・その他

報酬に固定給部分があったり,事実上固定給となっていて,その額も生計を維持しうる程度のものであるなど報酬に生活保障的要素が強いといえるような場合,労働者性を補強するということができるでしょう。

 

実際には,上記のような判断要素,補強要素を一つ一つ具体的に検討していき,最終的には総合的に判断することになりますので,軽々には判断できません。

 

裁判例では?

裁判例においても,基本的には,前記報告で挙げられているような事実を検討しているものが多いといえますが,その他の事情も加味して判断しているものもあります。

最高裁においては,自己所有のトラックを持ち込む形態でのトラック運転手や一人親方の大工の事例で判断がなされていますが,いずれも労働者性が否定されています。

下級審においては,多数の裁判例があり,労働者性の肯定例も否定例も多数あります。

肯定例としては,吹奏楽団員,映画製作における撮影技師,クラブのホステス,高齢者住宅に居住して高齢者の世話をする生活協力員,パソコン教室の店長,保険代理店の保険勧誘員などがあります。

否定例としては,証券会社の外交員,フランチャイズ契約におけるパン販売店の店長,新聞社のフリーランス記者,バイク便などがあります。

 

色々列挙しましたが,いずれにしても,労働者性が肯定されるか否定されるかは,個々の事案の具体的事情により左右されますので,同じ業種・業態だからといって結論が同じになるとは限らないことに注意が必要です。ただ,同じ業種・業態で判断がなされた裁判例がないかを検索し,そこに現れた事情と自分の場合との異同を検討することは,非常に有益なことといえます。

もっとも,そういった検索・検討こそ,まさに弁護士に相談する意味の一つだと思います。

「業務委託契約」の形式のもとに,あっさり契約を終了されたり,長時間労働にも関わらず残業代が支給されないといったとき,疑問に思ったら,弁護士に相談してみた方がよいでしょう。