交通事故の休業損害について-職業形態ごとに弁護士が説明します

交通事故に遭って怪我をしたことで、仕事を休まなければならなくなってしまうことがあります。

そのような場合は、相手方に休業損害を請求することができます。

しかし、休業損害の請求のしかたは、職業形態によって異なりますし、請求の難易も異なります。

そこで、今回は、休業損害について説明したいと思います。

 

1 会社員など給与所得者

⑴ 必要書類は比較的簡単

会社員など企業・団体などに雇われて給与を得ている方の場合、休業損害を請求する際の必要書類を集めるのは、比較的簡単といえるでしょう。

このような方が休業損害を請求するには、休業損害証明書と事故前年の源泉徴収票が必要となります。休業損害証明書の用紙は、相手方保険会社から送られてくることが多いかと思いますが、手元になければ、相手方保険会社に問い合わせれば送ってくれるはずです。

休業損害証明書は、事故により会社を休んだのであれば、会社に提出すれば書いてもらえます。

事故前年の源泉徴収票は、手元になければ、会社に請求すれば発行してもらえます。

欠勤の場合だけでなく、有給休暇を使用した場合も請求することができますし、遅刻・早退など部分的な欠勤の場合でも大丈夫です。

⑵ 注意点

このように、会社員の場合、休業損害を請求するのは比較的簡単といえますが、注意したいのは、実際に給与が減らなければ休業損害は請求できないということです(有給休暇は別)。当たり前といえば当たり前ですが、休業損害とは、事故による休業で給与が減ったことに対する賠償ですから、給与が減らなければ請求できないことになります。

会社を休めば給与が減るのは当然だと思う方がいるかもしれませんが、会社によっては、給与が減らないということもあるのです。公務員などが典型例です。

また、形式的に休業損害証明書を整えたとしても、就業の実態があるのか疑念がある場合は、相手方保険会社の調査が入ることもあります。くれぐれも詐欺的な請求はしないように注意しましょう。

⑶ 請求金額は要検討

もう一つ注意しなければならないのが、請求金額です。会社に休業損害証明書を書いてもらって相手方保険会社に提出すれば、あとは相手方保険会社が記載内容に従って休業損害を計算します。

ここで、通常、保険会社は、休業損害証明書に記載されている事故前3か月の給与合計額を90日で割って日額を計算します。これは、労災の休業補償給付のときに使われる平均賃金の計算方法に準じているからです。しかし、この計算方法では、土日など休日も含めた日数で割っていることから、その分、日額は低く計算されることになります。

ここで、労災の場合は、連続して休業することが前提となっており、休業「期間」に応じて休業補償給付額を計算するからこそ妥当な計算方法といえるともいえます。

しかし、交通事故でむち打ちなどの場合は、仕事をしつつ通院日だけ会社を休んで通院するということもよくあります。そうすると、休業損害は会社を休んだ日の分だけ計算されるのに、その日額は土日も含んで計算されていて低く見積もられているということになります。この辺りをきちんと考慮するのであれば、日額を計算する際、90日で割るのではなく、就業日数で割って日額を計算することになるでしょう。

 

2 自営業の方

自営業の方の場合、会社に書いてもらう休業損害証明書のようなものはありませんので、日額、休業日数ともに問題となります。

⑴ 基本は確定申告書

自営業の方の日額を計算するためには、基本的に事故前年の確定申告書によることになります。所得金額を365日で割るなどして日額を計算します。

ところが、開業して間もない方など、事故前年の確定申告書がない、もしくは前年の途中からの確定申告書になってしまっている場合があります。

このような場合は、月ごとの収支で所得を計算して日額を計算するなど、確定申告書以外の資料も基にして計算する必要があります。また、前年はイレギュラーなことがあって収入が少ないなどの場合は、さらにその前に遡って確定申告書を確認したりすることもあります。

しかし、自営業の方の中には、開業届がない、きちんとした帳簿を付けていない、きちんと確定申告をしていないなど、資料が集めきれないという方もいて、なかなか思うようにいかないこともあります。

⑵ 休業日数

日額が計算出来たら、あとは何日休業したのかということになります。

しかし、自営業の方だと、会社に休業日数を証明してもらうということもできません。

このような場合、いくつか考え方があります。

一つは、便宜上、通院日数を参考にする方法です。通院日数は診療報酬明細書などで確認することができますし、実際に通院した日は業務時間が削られているといえますので、これを基に休業損害を計算するのです。

また、業務に支障が出た期間を決め、逓減方式つまり最初の○日は100%、次の○日は50%など徐々に減らしていく方法もあります。

何か決まった方法があるわけではありませんので、妥当といえる方法を検討していくことになります。

⑶ 根本的に異なる計算方法

上記の方法は、会社員の方と同じような計算方法により自営業の方の休業損害を計算しようとするものです。しかし、まったく違ったアプローチもあります(むしろこちらが原則的なのですが)。

一般に、消極損害の算定は、原則として、事故による減収分、つまり事故がなかったときとの差額によります。そこで、休業損害についても、実際の減収分を損害とするのです。

この場合は、事故前年や複数年の平均所得を計算し、事故年の所得と比較することになります。年単位でなく、月単位などで計算することもあります。

この方法は、一見すると素直な方法で簡単そうに思えるかもしれませんが、年収にばらつきがあるとうまく比較できないこともありますし、事故以外の要因が絡んで収入が増減していたりすると難しくなります。

⑷ 注意点

上で説明してきたように、自営業の方の休業損害の計算はなかなか簡単にいかないことも多いのですが、それにとどまらない問題があることもあります。というのは、自営業の方の中には、税金を低くするために、経費を多くして所得をなるべく低くした確定申告をしている方がいたりします。

このような方が、実際の所得はもっと多いと主張しても、公的な書類として提出した確定申告書の証明力は強いと言わざるを得ません。とはいえ、それ以外の証拠によって実際の所得を証明することができれば、それを基に休業損害を計算することも可能といえるでしょう。ただ、その場合、確定申告の方をどうするかという問題は別に残ります。整合性を取るには、税務署へ修正申告すべきことになるでしょう。

 

3 家事従事者の方

⑴ 家事従事者にも休業損害は認められる

いわゆる主婦など家事従事者にも、実は休業損害が認められます。

この場合、家事従事者の所得は、原則として女性の全年齢平均所得を参照することになります。たとえば、令和3年ですと、これは385万9400円になりますので、日額にすると、1万円を超えることになります。

家事従事者の場合、所得の立証がいらないので、比較的請求しやすいといえます。

⑵ 休業日数は

ただ、休業日数については、自営業の方と同じような問題があります。

日額×休業日数として、怪我による家事への支障の程度などによって休業日数を決めたりします。自営業と同様、通院日数を目安にすることもあります。

そもそも、家事従事者の場合、怪我によって丸一日まったく家事ができないという事態は多くないといえますので(入院は別ですが)、日額×休業日数で休業損害を計算することには無理があり、いずれにしても擬制するしかないのです。

これとは別に、自営業の場合と同様、逓減方式によって計算することもあります。

⑶ 注意点

上記のとおり、家事従事者の所得は、原則として女性の全年齢平均を用いるのですが、高齢の夫婦のみの世帯のような場合、全年齢平均ではなく当該家事従事者の年齢層の平均を用いるべき、又は割合的な認定をすべき、さらにはその両方と反論されることがあります。勤労世帯と比べると家事の負担が低いことなどが理由とされます。

家事従事者の休業損害は、いずれにしても一種の擬制を伴うものですから、実態に即して妥当と考えられる解決を探ることになるでしょう。

また、家事に従事する者が他にもいる場合(2世帯同居などで妻と母が家事を分担しているような場合など)には、やはり負担の程度に応じて割合的認定になる傾向があります。

ところで、家事従事者は、何も女性に限った話ではなく、男性の場合も当然あり得ます。ちなみに、男性の場合であっても、家事従事者の所得は、女性の平均所得を用いることになります。

なお、男性の家事従事者の場合、本当に家事従事者といえるのか、相手方保険会社に細かく聞かれることもあります。

 

4 会社経営者

会社経営者の場合、会社から受け取っているのは給与ではなく役員報酬です。役員報酬は、一般に労働日数にかかわらず固定で支払われるものといえます。

そのようなこともあって、会社経営者の場合、原則として休業損害を請求するのは難しいといえるでしょう。

もっとも、役員報酬であっても、労働の対価と評価できる部分に関しては、休業損害として請求することが可能となります。労働の対価といえるかどうかについては、事実関係を詳細に説明・立証する必要があるでしょう。

ただし、いずれにしても、損害として請求するものである以上、従前どおり役員報酬が支払われていたら請求できないのは当然です。

 

5 無職の方

無職の方の休業損害というと、えっ?と思われるかもしれませんが、まったく認められないものではありません。就労の蓋然性が高いといえること、就労の意思があることなどを立証できれば、休業損害が認められます。

ただし、認められるとしても、可能性を根拠にしているとい面は否めませんので、通常の場合と比べて低くなることはやむを得ないでしょう。

 

6 まとめ

これまで様々な職業形態における休業損害について説明してきましたが、どのような方でも、事故による怪我の影響で収入が減ったといえるのであれば、休業損害を請求できる可能性はあります(家事従事者は収入が減ったとはいえないので擬制ですが)。立証の問題はありますが、最初から諦めてしまうのはもったいないといえるでしょう。

休業損害でお悩みの方は、弁護士に相談してみた方がよいでしょう。弁護士に真剣に相談すれば、弁護士も真剣に検討するはずです。