交通事故の示談交渉は弁護士に依頼した方がよい理由

1 はじめに

交通事故に遭ってケガをしてしまい,何か月も通院することになってしまった場合,最終的には,相手方と示談をすることとなります。相手方が自動車保険に入っていれば,相手方保険会社から保険金支払いのご案内として内訳書とともに免責証書が郵送されてきて,承諾するならサインして返送するという流れになることが多いのではないでしょうか。

交通事故に遭ってケガをする経験が初めてという方も多いでしょうから,そういうものだとあまり深く考えずにサインしてしまう方がいるかもしれません。

しかし,相手方保険会社の提示する内容は,被害者側からすれば,実は妥当なものとは限りません。示談交渉を弁護士に依頼することで,慰謝料などの合計額は増額する可能性があります。

今回は,交通事故の示談交渉はなぜ弁護士に依頼した方がよいのかをご説明します。

 

2 慰謝料

まず,交通事故による損害賠償はいくつかの費目に分かれています。その中でまず思い浮かぶものに,慰謝料があります。

一般的に,慰謝料は,ケガをして入通院をすることになってしまったことに対応するものとして入通院慰謝料や傷害慰謝料と呼ばれるものと,後遺症を負ってしまったことに対応するものとして後遺症慰謝料に分けられます。

慰謝料は,精神的苦痛を慰藉するための損害ですので,本来は個人差があるわけですが,多くの事例の蓄積により,ある程度の基準が存在します。慰謝料の基準として一般的にいわれる中には,

・自賠責基準

・保険会社基準

・弁護士基準(裁判所基準)

があります。

自賠責基準といわれるものは,自賠責保険による支払基準で,1日4300円(令和2年4月1日以降の交通事故)と定められています。

弁護士基準(裁判所基準)といわれるものは,いわゆる赤い本や青本等と呼ばれる書籍に掲載されている基準で,裁判所が基準にしているとされるものです。なお,裁判所は各地の裁判所で異なる基準を採用していることがありますので注意が必要です。

保険会社基準は,任意保険会社が内部的に基準としているものです。

 

それぞれの基準を比較した場合,弁護士基準で計算したときに慰謝料が一番高くなる傾向があります。保険会社の支払提示において,いきなり弁護士基準で提示してくることはほとんどありません。弁護士に依頼すれば,弁護士は弁護士基準で交渉しますので,保険会社の提示額より増額する可能性があります。

保険会社は,弁護士が介入していないと,なかなか弁護士基準での交渉に応じませんので,少しでも慰謝料の増額を求めるのであれば,弁護士への依頼を検討した方がよいといえます。

 

3 休業損害

休業損害は,自賠責基準では原則として1日6100円(令和2年4月1日以降の交通事故)とされています。ただし,それを上回ることが立証できれば,1日1万9000円を上限として認められます。

保険会社に休業損害を請求する場合,会社員等であれば,会社等に休業損害証明書を作成してもらい,それを保険会社に提出することになります。そして,それをもとに認定された日額を基準として,休業日数分が支払われることになります。

自営業の方の場合は,確定申告書を基にすることが多いといえます。もっとも,立証が足りないと判断され,支払ってもらえなかったり,自賠責の基準しか認められなかったりすることもあります。

弁護士に依頼した場合,会社員であっても,日額が正しく計算されているか,休業した日数分支払われているか等をチェックできますし,他に考慮すべき事情がないか確認することもできるでしょう。自営業の方で保険会社の認定額に不満があるときは,補強できる資料があるか等を検討することにより増額を目指すことになります。

また,家事従事者の場合,家事従事者の休業損害を検討することとなります。一般に,保険会社の提示では日額が自賠責基準とされていることが多いですが,弁護士であれば,原則として女性労働者の全年齢平均額を基準とした日額で交渉することになりますし,日数についても交渉していくことになりますので,増額する可能性があります。

 

4 後遺症

後遺症が残り,後遺障害等級が認定されている場合は,保険会社の提示では,後遺症慰謝料と逸失利益の費目が記載されていることが多いといえます。後遺症部分については,保険会社は,自賠責の基準で提示してくることが多い印象です。そこで,弁護士に依頼した場合,後遺症部分は,大幅に上昇する可能性があります(たとえば,後遺障害等級14級の場合,自賠責の支払限度額は75万円ですが,弁護士基準の場合,後遺症慰謝料だけで110万円(赤い本の場合)なので,それだけでも自賠責基準を上回りますし,さらに逸失利益の部分も請求するので,さらに上回ることとなります。)。逸失利益についても,保険会社は労働能力喪失期間を低く見積もる傾向がありますので,弁護士が交渉していく必要があります。

 

5 その他

他にもいくつか費目はありますので,弁護士に依頼すれば,保険会社の提示に漏れがないかチェックすることも可能です。特に,長期間入院していたり,重い後遺障害等級が認定されていたりするような場合には,付添費や看護費など他に請求すべきものがないか精査する必要がありますし,弁護士に依頼することにより保険会社の提示額より大幅に増額することもありますので,一度弁護士に相談した方がよいといえます。

 

6 まとめ

以上のとおり,費目ごとに見ていくと,弁護士に依頼した方が保険金額は増額する可能性が高いといえます。もっとも,交通事故の損害賠償では,過失割合,既払額,自賠責との関係など,他にも考慮しなければならないものがありますし,実際に弁護士に依頼する際には,弁護士費用との兼ね合いも重要でしょう。これらも含めた見通しについては,詳細に内容を検討する必要がありますので,方向性を見誤らないためにも交通事故の経験豊富な弁護士にきちんと相談した方がよいといえます。

ただ,弁護士費用については,弁護士費用特約を利用することができるのであれば,負担しなくて済んだり,かなり軽減することができたりしますので,弁護士に依頼する際のデメリットとはならないでしょう。

 

交通事故の示談交渉を弁護士に依頼すると,慰謝料などを増額させ,トータルの受取額も多くなる可能性があります。弁護士に依頼するメリットは,それ以外にも,弁護士が窓口となって交渉するので相手方保険会社と直接やり取りしなくて済むことや,適正妥当な賠償額について法的見地からアドバイスを受けることができることなどもありますし,どうしても交渉で解決しないときには法的手続等へ進むこともできます。

保険会社の支払提示額に疑問があるなら,弁護士に相談してみることをお勧めします。