残業代の計算方法とは?弁護士が解説
残業をしているはずなのに残業代が出ていない,残業代は出ているけれども残業時間からすると少ないような気がする…。
そのようなとき,残業代の計算をしてみたいと思っても,どうやって計算するのか分からないという方もいるのではないでしょうか。
今回は,残業代の計算方法について説明します。
基本的な計算式
まず,残業代を計算するうえで基本となる計算式は,以下のとおりとなります。
(算定基礎時給)×(1+割増率)×(残業時間)
したがって,それぞれの要素を計算・集計していけば,残業代を計算することができます。では,それぞれの要素についてみていきましょう。
算定基礎時給を計算する
残業代を計算するには,まず,算定の基礎となる時給を計算することになります。これは,賃金の定め方によって異なってきます。
①時給制の場合
この場合は,通常の時給がそのまま算定基礎時給となります。
②日給制の場合
この場合は,
(日給)÷(所定労働時間)
で算定基礎時給を求めることができます。
③月給制の場合
一般的に月給制の場合,その月の就労日数(つまり所定労働時間数)が異なっていても,毎月同じ額が支給されることが多いと思います。このような場合,算定基礎時給は,
(月給)÷(1年間における一月平均所定労働時間数)
により計算することになります。つまり,一月ごとに算定基礎時給を計算するのではなく,1年間を平均した算定基礎時給を計算することになります。そして,(1年間における一月平均所定労働時間数)は,
((1年間の日数)-(1年間の休日日数))×(1日の所定労働時間数)÷12
で計算することができます。つまり,1年間の労働日数×所定労働時間により1年間の総労働時間数を求め,それを12か月で割って平均を求めるということです。平年と閏年とでは1年間の日数が異なりますし,土日祝日が休日の会社の場合など年間の休日日数は微妙に異なってきますので,コツコツと数えることになります(インターネット上には自動で計算してくれるページもあるようですが。)。
なお,月の所定労働時間数が固定されているような月給制の場合は,単純に,(月給)÷(月所定労働時間)により計算することになります。
④歩合制の場合
歩合制の場合は,
(歩合制の賃金算定期間における歩合制による賃金総額)÷(歩合制の賃金算定期間における総労働時間数)
により算定基礎時給を算定することとなります。月給と歩合が併存してる場合には,それぞれ別々に計算していくことになります。なお,歩合制の場合は,所定労働時間ではなく総労働時間により計算することに注意が必要です。
割増率は?
割増率については,労働基準法,同規則及び労働基準法による委任に基づく政令により,時間外労働の割増率は0.25倍以上(月60時間を超える部分については0.5倍以上。ただし,中小企業については令和5年4月1日から適用),深夜労働(午後10時~午前5時)の割増率は0.25倍以上,休日労働の割増率は0.35倍以上となっています。時間外労働が深夜に及んだ場合はそれぞれが加算され0.5倍以上となり,休日労働が深夜に及んだ場合は0.6倍以上となります。
就業規則等により,上記以上の割増率が定められている場合はそれによることになります。なお,上記法令等では,「以上」すなわち割増率の最低ラインを定めているだけですが,就業規則等によりそれを上回る割増率が別途定められていなければ,上記最低ラインの割増率で計算することになります。
残業時間
残業時間については,1分単位で集計していきます。
労働基準法は,割増賃金が発生する残業時間について,「時間外」,「休日」,「深夜」に分けています。
「時間外」とは,法定労働時間外のことであり,1日8時間,週40時間を超える部分を指します。会社によっては,所定労働時間が7時間30分など法定労働時間を下回る定めになっていることもあるでしょう。この場合は,1日8時間以内の残業部分と8時間を超える部分とを別々に集計していきます。なお,1日8時間以内の残業部分は,「法内(法定内)残業」ということもあります。
「休日」とは,法定休日を指します。法定休日とは,労働基準法で定められた最低限の休日のことであり,毎週少なくとも1回,又は4週間を通じて4日以上与えなければならないとされている休日のことです。週休2日制を採用する会社では,そのうち1日が法定休日であり,もう1日は会社が任意に定めた「所定休日」ということになります(つまり,所定休日については,0.35倍ではなく0.25倍で計算することになります。)。
なお,法は「時間外」と「休日」を分けて規定していますので,休日労働については8時間を超える時間外労働というような概念がなく,全日が単に0.35倍の対象となります(深夜割増は加算されます。)。
「深夜」とは,午後10時~午前5時までを指します。
したがって,集計するにあたっては,「法内残業」,「時間外」,「休日」,「深夜」に分け,それぞれを集計していきます。なお,時間外の月60時間を超える部分は別途集計しておいた方がよいでしょう。
計算は大変
以上を基にして,最初に記載した計算式で計算すれば,残業代を計算することができます。
なお,法内残業については,月給制の場合,月給は所定労働時間の労働に対する対価といえますので,所定労働時間を超えて残業をしたときには残業代を支払わなければならないということになります。この場合,割増率はありませんが(就業規則等で別段の定めがない場合),算定基礎賃金分(つまり1.0倍部分)の残業代は発生します。
もっとも,ここで説明したのは,残業代計算の基本となる流れであり,実際の計算に当たっては,どの範囲が「月給」になるのか,固定残業手当と言われている手当がある,始業時刻前から働いていた場合も同様に考えていいのか,休憩中に仕事をしていた場合などにどのように考えればいいのかといった様々な問題が生じてくることがありますし,裏付けとなる証拠があるかどうかという問題もあります。また,変形労働制が適用されているような場合には集計の仕方も変わってきます。
上記のような問題をひとまず横に置くとしても,とにかく残業代の計算は手間と時間がかかることがなんとなくイメージできるのではないでしょうか。どれくらいありそうかというだけであれば,上記説明を基にしてざっくりと計算してみるというのでもよいでしょうが,具体的に会社に請求するとなると詳細に検討して計算することが必要といえるでしょう。
残業代請求を弁護士に依頼すれば,自分のプライベートな時間を削って大変な思いをして残業代計算をする必要もなく,弁護士に任せてしまうことができます。ざっくり計算してみて,どうやら未払の残業代がありそうだということであれば,まずは弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。