証拠が足りない…。残業代請求を諦める前に
残業代を支払ってもらえていないから残業代請求をしたいと考えていても,証拠がないからといって最初から諦めてしまっていませんか。
今回は,残業代請求の証拠についてご説明します。
証拠はなぜ必要?
まず,残業代請求をするにあたって,なぜ証拠が必要となるのでしょうか。
通常,会社が従業員(又は元従業員)から残業代を請求された場合,本当に支払わなければならないものなのか金額の根拠が必要と考えるでしょう。残業代は日々発生するものですので,厳密には,「〇月〇日は〇時から〇時まで働いた」という事実を基にして残業代を計算することになります。なので,会社側がその事実を認めない場合,その事実を裏付ける証拠が必要となります。
もっとも,言い換えれば,会社側が争わないのであれば,証拠は不要ということになります。ただ,会社側が何の根拠もなく認めることは多くありませんし,残業代請求の依頼を受ける弁護士としても,架空請求や過大請求ではないということを確認する意味でも一定の証拠が必要と考えるのが通常でしょう。
何が証拠になる?
では,どのようなものが証拠になるのでしょうか。
残業代の計算は,基礎となる時給に割増率を掛け,それに残業時間を掛けることで求められます。
割増率は,法定の割増率を上回る定めが就業規則等に規定されていればそれによりますが,法定の利率を上回る割増率を規定することはあまり多くありませんので,計算するうえで重要となるのは,時給計算をするための資料と残業時間を算出する資料ということになります。
このうち,時給計算をするための資料は基本的には月々の給与ですので,通常は給与明細を確認すればよいということになります。給与明細だけでは費目の意味が分からない場合もありますが,そういった際は賃金規程や労働条件通知書などがあればより具体的に検討できるといえます。
やはり証拠の有無が問題となるケースで最も多いのは,残業時間を算出する資料についてでしょう。タイムカードなど分単位で客観的に記録される資料があればいいのですが,そういったものがない会社も存在します。そのような場合,パソコンを使っている方であればパソコンのログ,トラックのドライバーであればタコグラフといった客観的に記録される資料があれば参考にすることができます。業務上のメールの送信履歴も一定の資料となるでしょう。また,そういった客観的な資料がなくても,手書きの日報で時間が記入されているものでも証拠になり得ます。自分の手帳などに日々の時間をメモしているということでも証拠になり得るといえるでしょう。書面で出せる証拠がない場合であっても,人の証言を証拠にするという手段もなくはないです。もちろん,客観性がない証拠では客観的なものと比較すると証明力には差がありますが,何種類かの証拠が整合しているということであれば証明の程度が高まるともいえるでしょう。業種やその人の働き方によっても何が証拠になり得るかは変わってきますし,思わぬものが証拠になることもあります。
手元に証拠がない場合
証拠となる資料は存在しているけれども自分の手元にはなく,会社が持っているという場合もあるでしょう。
そのような場合,まずは会社に対して任意の開示を求めていくことになります。会社が開示に応じれば,それを基に詳しく計算をしていきます。ただ,弁護士といえども開示を強制することはできませんので,任意交渉において会社が資料を開示しない場合は別の手段を検討せざるを得ないでしょう。
そのような場合の一つの手段として,訴訟を提起することが考えられます。訴訟段階では,文書提出命令の申立てを行うという手段もあります。ただ,訴訟段階に至れば,会社側も任意の開示に応じるか証拠提出することが多いといえるでしょう。
会社側が証拠の隠滅や改ざんをする可能性が高い場合は,証拠保全という手段も検討することになります。
客観的な証拠がない場合
客観的な証拠がなかったり,又は客観的な証拠が欠けていたりする場合,請求期間の全部又は一部について分単位で残業代を計算することができないことになります。そのような場合であってもすぐに諦める必要はありません。もし,「この程度は残業をしていた」ということが推定できるのであれば,残業時間を推定して残業代を計算するという方法もあり得ます。推定計算をするには,推定できるだけのそれなりの根拠が必要となりますが,タイムカード等がないような場合には,その可能性を検討することになるでしょう。
つまり,証拠がないからといって最初から諦めてしまうのはもったいないといえます。
まずは弁護士に相談!
残業代は請求したいけれども手持ちの資料があまりない,ということで躊躇してしまっている方もいるかもしれません。しかし,何か証拠になるものがないか,何とかして残業代請求できないか,弁護士に相談すれば,一緒に考えてくれるはずです。請求できそうかどうかは相談してみないと分かりませんし,実際に依頼するかどうかも相談後に検討すればよいといえます。
独りで悩まず,まずは弁護士に相談してみましょう。