在宅勤務でも残業代請求できる?

新型コロナの影響もあり,テレワークが徐々に浸透しつつあります。テレワーク自体は,柔軟な働き方を可能にするものですので,好ましいものといえます。

しかし,テレワークも決してメリットばかりではありません。デメリットの1つとして挙げられるのが,労働時間管理の困難さです。これは会社にとってもそうですが,労働者にとっても自律的に自己の労働時間を管理するのはなかなか難しいといえます。

テレワークの中でも在宅勤務は,特にオンとオフの切り替えが難しいといえ,ついつい際限なく仕事をしてしまう方もいるのではないでしょうか。

 

今回は,テレワークの中でも,新型コロナの影響により増えていると思われる在宅勤務を念頭に,残業代請求について説明したいと思います。

 

在宅勤務をしている労働者の中には,ついつい際限なく仕事をしてしまう方もいるのではないでしょうか。また,社員等とのやり取りはメール等が多くなりがちです。就業時間か否かにかかわらずメールが送信されてきて,それを読んでしまうとそのまま仕事をせざるを得ない状況になってしまうこともあるかと思います。気が付くと連日のように1日の労働時間が所定労働時間をオーバーしている…ということもあるのではないでしょうか。

在宅勤務をしていると,労働者の側も,必ずしも仕事だけに集中しているとは限らないため,多少労働時間が延びたとしても,残業代請求はできないのではないかと考えてしまうこともあるでしょう。

しかし,在宅勤務だからという理由だけで残業代請求ができなくなる理由はありません。所定労働時間を超えて労働をしていれば,会社で仕事をしていようが在宅で仕事をしていようが会社は残業代を支払わなければならないのが原則です。

したがって,在宅勤務だから…と早計に残業代請求をあきらめる必要はありません。もっとも,在宅勤務の場合,会社に出勤した場合と異なる点があるのは事実ですし,残業代請求できるかどうかについては,きちんと検討しなければならないでしょう。

 

在宅勤務で残業代請求するには?

 

まずは,在宅勤務をするにあたって,会社の制度がどうなっているか,自分にはどのような制度が適用されているのか在宅勤務のやり方について会社からどのような指示を受けているのかを確認する必要があります。

一口に在宅勤務といっても,会社によってその内容は異なります。

・もともとの始業時刻・終業時刻・休憩時間どおりに仕事をする場合

・休憩時間は所定の時間内で柔軟に取得してよいという場合

・中抜けの場合は休憩時間を延長したものとしてその超過時間分について終業時刻を後ろにずらすことで1日の所定労働時間分は働くという場合

・フレックス制が適用される場合

・事業場外のみなし労働時間制がとられている場合

・裁量労働制だから,とか変形労働時間制だからと説明されなんとなく長時間労働をさせられているという場合

・1日にやるべきことが決まっていて,それをやっていれば会社からは細かいことを言われないという場合

・残業をする場合に事前許可制が採られている場合

他にも,色々なパターンが考えられます。まずは,自己の「在宅勤務」がどのようなものなのかを把握することが肝心です。

 

なお,上に挙げたもののうち,事業場外のみなし労働時間制は,何時間働いても原則として所定労働時間労働したものとみなす制度であり,残業をしても残業代請求できない可能性があります。しかし,この制度は,労働者にとって酷な結果となりかねず,長時間労働を引き起こす可能性もあるので,この制度における「労働時間を算定し難いとき」という要件は,裁判所によって諸般の事情を考慮して総合的に判断される傾向があります。したがって,本当にこの制度が適用されるのか十分な検討が必要といえるでしょう。この制度については,別コラムで説明したいと思います。

また,裁量労働制や変形労働時間制は,基本的に在宅勤務とは次元の異なる制度です。会社側の単なる方便に使われていないかチェックが必要といえるでしょう。

残業の事前許可制についても,制度がそのとおり運用されているか確認する必要があるでしょう。

 

自己の在宅勤務の制度的な現状を把握したとして,次に問題となるのが労働時間の把握です。制度的に残業代を請求できるものだったとしても,労働時間の立証ができなければ,結局のところ残業代を計算することができず,残業代請求は困難となってしまいます。在宅勤務においては,このハードルが高い場合が少なからずあるといえるでしょう。

会社側で時間管理システムのようなものを導入していて,出退勤や休憩時間を記録するようになっている場合は,実際の労働時間もそのとおりなのであれば,比較的立証は容易でしょう。ただ,そのような会社では,残業代についてもきちんと計算して支給しているのではないでしょうか。問題は,会社による労働時間管理が徹底しておらず,会社がそれに乗じて残業代を支払わない場合です。

在宅勤務の場合,パソコンで仕事をする業務形態であれば,パソコンのログを取得するというのも1つの方法です。ただ,在宅勤務の場合,パソコンが立ち上がっていれば仕事をしていたといえるかという点は,会社内での勤務以上に問題となりえます。この点は,会社内での勤務と比べて,労働していたという推定が働きづらいといえるでしょう。そこで,様々な証拠を組み合わせて労働時間を立証していく必要があるといえます。メールのやり取り,実際の作業内容やその作業に通常かかる時間,上司から連絡があった際応答するまでに許容される時間,即応しなかった場合の注意等,反対に,中抜けしたのであればその時間が立証できるか等々,勤務の実態に即して立証の材料を探していくことになります。

なお,会社のシステム内にログインして作業していたり,社内チャットを使用していたりするような場合,会社側にはそういったもののログが残されている可能性もあります。ただし,これを入手できるかということは別問題ですので,できる限り会社側の協力によらずとも立証できるような証拠を集めていくことが肝要です(会社が故意に開示しないという場合だけでなく,ITに疎くログの取り出し方が分からない場合もあるでしょうし,別会社のサービスを利用していてその会社から情報開示を受けるのが困難という場合もあり得ます)。

めぼしい客観的な証拠が見当たらないという場合は,日々の行動を記録しておくことも一考です。信ぴょう性を高めるためには,データではなく紙とボールペンで記録する,後でまとめてではなく都度記録する,できる限り詳細に記録する,有利不利にかかわらずありのままを記録する,というようなことが考えられます。

 

独りで悩まずに弁護士に相談しましょう

 

上記のとおり,在宅勤務において残業代請求をするためには,労働時間の立証の点で,通常の場合よりも超えなければならないハードルがやや高いかもしれません。しかし,その点がクリアできれば,残業代請求への道は開けるといえます。もちろんその他にも争点となりうる事項はありますが,それは通常の場合であっても同様です。また,どういった資料があれば戦えそうかについては,残業代請求の経験を積んだ弁護士でないと判断するのは難しいでしょうから,ご自身だけで判断せず,まずは弁護士に相談した方が良いでしょう。