症状固定とは?知っておきたい基礎知識

交通事故でケガをして通院していると,「症状固定」という言葉を見聞きすることがあると思います。なんとなくイメージできるけど実はきちんと理解していない,症状固定になるとどうなるのか実はよく分からないという方もいるのではないでしょうか。

そこで,今回は,症状固定について少しご説明したいと思います。

 

症状固定というと,ケガの治療に関係する言葉ですので,医師(主治医)が判断するものと思われるかもしれません。これは正しい側面もありますが,少し違った面もあります。というのも,「症状固定」とは,純粋な医学用語ではありませんし,医師が治療に際して必要とする言葉でもありません。

では「症状固定」とは何なのかというと,これは傷病の治療と後遺症とを区切って損害賠償の範囲を画するために必要となる概念ということができるでしょう。

「症状固定」日を基準として,ケガの治療に関する損害(治療費,交通費,休業損害,慰謝料など)が算定されることとなります。そして,「症状固定」後に残存する症状は後遺症として別途考えていくこととなります。このように,損害賠償においては,「症状固定」は重要な意味を持ちます。

 

症状固定とはどういう状態を指す?

 

ここで「症状固定」とはどのような状態を指すのかというと,一般には,労災で用いられる「なおったとき」に使われる定義をもって「症状固定」を指すことが多いといえます。労災で用いられる「なおったとき」とは,「傷病に対して行われる医学上一般に承認された治療方法をもってしても,その効果が期待し得ない状態で,かつ,残存する症状が,自然的経過によって達すると認められる最終の状態に達したとき」をいいます(「なおったとき」は少しややこしいですが,このように,治癒とは別ものです。)。

 

症状固定時期が争いになることもある!

 

上記のとおり,症状固定は医学的な判断を基礎としていますので,主治医の判断が重要な意味を持つことはいうまでもありません。

しかし,後遺障害診断書に記載された症状固定日が争いになることもあります。たとえば,保険会社が通院の途中で治療費の支払を打ち切った場合などは,被害者側の主張する症状固定の時期を保険会社側が認めないということもあります。前記のとおり,症状固定時期は損害賠償額に大きな影響を及ぼすからです。

この争いに一致点が見いだせなければ,最終的には訴訟により裁判所の判断を仰ぐことになります。

では,裁判所は,主治医の記載した症状固定日をそのまま認めることになるのでしょうか。

確かに症状固定の判断は医学的な判断を基礎としています。しかし,それを基にしつつも最終的な判断をするのは裁判所です。被害者側の主張する(主治医が記載した)症状固定日が妥当なのか,もっと早く症状固定になっていたはずだという加害者(保険会社)側の主張が妥当なのか,証拠を踏まえて判断していくわけです。そういう意味では,症状固定とは法的概念でありそれを判断するのは裁判所ということになります。

そうすると,主治医が後遺障害診断書に症状固定日を記載したからといって,それがそのまま通るわけではなく,裁判所の判断が異なることもあり得ます。

仮にそうなってしまうと,裁判所の認定した症状固定日を基準として損害賠償額が計算されることになりますので,保険会社の治療費打ち切り後に自費で通院していたのであればその分は持ち出しのままということになりますし,もし保険会社が認定された症状固定日後の分として支払っていたものがあれば,その分は払い過ぎということになってしまいますので慰謝料などの合計支払額から差し引かれてしまうということもあり得ます。このように,先の見通しもなく症状固定を先延ばしにしていると後で思わぬ不利益を被ってしまう可能性もあります。

ですので,症状固定については,主治医だけでなく,弁護士ともよく相談することが大事となってきます。

 

症状固定時期はどう考えればいい?

 

では,症状固定時期の基準のようなものはあるのでしょうか。

これについては,残念ながら明確な基準はないといえます。傷病の程度,痛みの程度は様々だからです。

ただ,症状固定がどういう状態を指すのかを考えると,ある程度の目安のようなものが見えてきます。前記のとおり症状固定の概念が「傷病に対して行われる医学上一般に承認された治療方法をもってしても,その効果が期待し得ない状態で,かつ,残存する症状が,自然的経過によって達すると認められる最終の状態に達したとき」だと考えると,通院しても痛み止めを処方される程度であり,痛み止めを飲むと痛みが軽減するが薬が切れるとまた痛み出してくるような状態が数か月続き,しかも痛みの程度もあまり変化がない,ということですと,主治医や弁護士と相談してみる時期かもしれません。

なお,上記症状固定の概念からすると,「痛みがまだ残っているから症状固定じゃない」というのは症状固定の概念を少し誤解しているということになりますので注意が必要です。

もちろん,交通事故のせいで痛みに苦しんでいるのだから,通院の必要がなくなるまで加害者(保険会社)が対応すべきだという感情を被害者が抱くのはもっともなことです。弁護士としては,そういった被害者の思いと法的な限界を見据えて,何が被害者にとってより良い解決なのかを考え,どうしたら被害者の利益を最大化することができるかを考えていくことになります。